左隣ではフランシスは気持ち良さそうに題名は知らないが最近良く聞く歌を歌いあげている。ありきたりな愛の歌だ。それを聞き流しながら、次歌う曲を入れ、機械をテーブルに置く。誰かが適当に入れていくという方法を取ったら、絶対に菊が遠慮して歌わないので席順にそって順番に入れていく、というのが不文律として存在してたから、次の番は菊だった。
それなら菊に手渡しすればいい話なのだが、右隣にいる菊は、フランシスの歌に聞き入っていて、邪魔するのも悪いと思ったのだ。好きな歌なのかもしれない。決してこいつの歌が上手だとか、声がいいからでは無いと思う。だって中身変態だし。

前方に目をやると、アルフレッドが携帯をいじって、閉じた。そして、背もたれに預けていた背を起こして、テーブルの上の機械を取ろうとする。

「おい、次は菊の番だろ」
「だって、菊、入れ無いじゃないか」
「それは歌を聞いてるからであって、後で入れるつもりなんだろ。なぁ、菊」
「あ……別に、構いませんよ」
「ほら、菊だってこう言ってる」
「それは遠慮してんだろ。……たく、何のために順番に回してると思ってんだ」
「でも菊が構わないと言うならいいじゃないか、まったく君は頭が固い」

アルフレッドは背もたれに乱暴に上体を倒して、足を組む。

「だいたいてめぇは、座り方からしておかしいだろ。四人で二つソファがあって、何でてめぇが一つ丸々使って座ってんだ」
「そんなの知らないよ。君達が好きで三人で座ってるんじゃないか」
「違えだろ、まず一番に入ったてめぇがいきなり寝っ転がりやがったからじゃねぇか!」
「今は違うだろ。何なら君がこっちに来るかい?」
「……話逸らしてんじゃねぇぞ」
「逸らしてなんかないよ」
「逸らしてんだろ。……そうじゃなくて、俺はお前にもっと人のこと考えろ、て言ってんだよ」

菊が迷惑してるだろ、と続けると、いえ私は、と少し困った顔で菊が隣で言った。

「や、別に俺はお前のために言ってるんじゃないからな! 俺だって迷惑だと思ったから言ってるだけで……あれだ、弟の教育は兄の務めだから!」
「わかってます」

そう言った菊の顔は少し緩んでいて、安心する。
代わりにアルフレッドの顔はぐっと険しい顔になった。

「……君たちって、本当、互いの前じゃ全然違うよね」
「何か言いました? アルフレッドさん」

俺は無視したが、菊が聞こえなかったようで聞き返す。アルフレッドは、何でも無いよ、と言った。

「んーっと、そこ、盛り上がってるみたいだけど、もうアーサーの、始まるからね」

フランシスがマイクを渡してきた。いつの間にか歌い終わっていた様だった。既に前奏が少し始まっている。
「あ、日本、あれ歌ってくれよ。前歌ってたやつ!」
「あれ、もう歌ったじゃないですか」
「そうだっけ? ちゃんと聞いてなかったから、もう一回歌ってくれよ!」
「アルフレッド!」

思わずマイクを通して怒鳴ってしまった。
弟の所業について
どこで育て方間違えた?

→弟の言い分

アルフレッドはわざとやってます。