「あ、菊! 今からカラオケ行きたいんだけど、どうだい?」

教室を出るとアルフレッドさんが大きく手を振りながらそう言った。カラオケですか。まぁ今日は特にこれといって予定は無かったし、見たいアニメはちゃんと予約を入れてきたし。

「よろしいですよ。あの、駅前のとこですよね?」
「うん。あ、でも混んでるかなぁ」
「では、何でしたら」

一駅先のとこまで足を延ばしましょうか、と言いきる前にアルフレッドさんの背後からフランシスさんがあらわれた。そしてそのまま絡むようにアルフレッドさんの肩に手を回す。

「なんだよ、お前ら。これからどっか行くの」
「ええ。アルフレッドさんとカラオケに」
「フランシス、暑苦しいからこの手、退けてくれないかな?」
「カラオケかぁ。いいなぁ。お兄さんも着いてっていい?」
「フランシス、聞いてるのかい?」
「ん? 聞いてるよ、かわいいアルフレッド。何? 腰なら良いわけ?」

そう言いながらアルフレッドさんの腰に手を回す。

「良いわけが無いに決まってるじゃないか。ああもう! しょうも無いおっさんだな」
「しょうも無い、てひどーい」

くすくす、と笑ってやっとフランシスさんはアルフレッドさんから離れる。アルフレッドさんはフランシスさんに触られたところを手で払う真似をした。アーサーさんと同じ動作だ、と思ったけど言わないでおく。

「で、良いでしょ? 着いてっても」
「別に良いけどね。……きっと、多い方が楽しいし!」
「よし。えっと、駅前のとこ?」
「あ、そのことですけど……」
「あそこだったら、アーサー連れてったらいいよ」
「……アーサーさん?」
「うん。あそこ、ここの学校の生徒ばっかり行くだろ? あいつが行けば絶対一部屋は空く」
「……何をやってるんだ、あの人は」

はぁ、とアルフレッドさんは溜息をついた。まぁ、アーサーさんも、何をやってるんだあの馬鹿は、と言いながらよく溜息を吐かれますが。

「どういうことですか?」
「顔だけは売れてるからね、あいつ。シメた奴ら、今じゃもうあいつの顔見たら即行逃げるか、貢ぐかするよ」
前アーサーと一緒にカラオケ行ったらね、何人も俺の金で歌ってください、て部屋譲って帰っていくの。笑っちゃったね。

聞いた途端アルフレッドさんはさっきよりも大きな溜息を吐いた。そんなアルフレッドさんを見てフランスさんは笑う。

「……で、アーサーはどうしたのさ」
「ん、どうもしねぇよ。その時はもとから空いてたからね。別にそいつらの部屋、使う必要無かったし」
「へーえ。二人で行ったのかい?」
「そう。二人で。あ、悪いメール入った」

フランシスさんはポケットから携帯を取り出して、いじる。

「ん、アーサーからだ。ちょい電話かけるわ……あ、アーサー?」
今からね、カラオケに行こう、て話になってんだけど。えっと、アルフレッドと菊と。行く? 行くよね。あーえっと、お前今どこ。

「なぁ、菊。俺、すっごく行きたく無くなったぞ」
「多い方がきっと楽しいのでしょう?」
「……君は嫌じゃ無いのかい。俺は嫌だぞ」
「生憎、私はアーサーさんが大好きなので」

はぁ、と大きなため息が聞こえた。
兄の所業について
ほんともう、やめてくれないかなぁ!

→兄の言い分

アーサーは売られた喧嘩は取りあえず買います。