そしてまたキスをしたの続きです。 目覚めたら腕の中に慣れた温もりがあって、フランスは安心した。それはつい一昨日までは存在しなかったフランスの胸に顔を埋めるように眠っていて、つい笑ってしまう。 「……んと、ガキだなあ」 お前いくつだよ、と言いながらその短い髪を撫でると、くすぐったかったのか少しだけイギリスは唸ってよりぐりぐりと頭を押し付ける様にする。まんま子どもそのものの行動だ。 「俺はお前のママじゃ無いってぇの」 他の女の子にもこんなことしてんのか、こいつ。フランスはそんなことを思って、勝手に自分が思ったのに心がちょっとだけ冷えた。長い間誰よりも隣にいたんだし、知らない訳じゃなかったけど、こう、自らの身体で体験してしまうのはまた違う。ふいに、昨日の自分を殴ってやりたくなった。何でこいつの所へ来てしまったのだろう、とフランスは後悔する。すぐに、やっぱり心のどこかで期待していたのだろうな、と結論付けて、畳み掛けるように、何を、と自分に問うた。 イギリスが見知らぬ女である自分と関係など持つ訳無いとか。 たとえ外見が変わってしまっても、自分に気づいてくれるだろうとか。 はぁ。溜息をつく。その息はイギリスの髪に当たって、流れた。この男は期待外れに俺を抱いて、期待通りに気づいてくれた。柄にも無く泣きたくなる。いくら愛を与えても返してなどくれるわけが無い、とわかっているのに、愛されてると錯覚してしまいたい。 「……知ってるよ。寂しいだけなんだよな」 イギリスは気持ちいいことは大好きだけど、その実、結局は他人の体温を求めてるだけなのだ。乱暴な言い方をすれば、相手は誰でもいい。その温度の求め方は、子どもが母親に抱きしめて貰いたがるのに似ている。こいつにとっては愛イコール温度であって、俺がこいつに抱く愛の種類とは異なっている、とフランスは理解していた。それでもいい、と思っていた。求めてくるのが俺であるなら、それでもいい、と思っていた。 でも、温度なんてものは誰だって持っているのだ。それにそれを求めるのは男なんかではなく、母性を持つ女性に対しての方が自然なのだ。 そんなこいつが、女を抱かない筈が無いなんて知らなくても、実感しなくても、考えたらすぐ分かることで、今更な話だ。本当に今更な話だ。笑えてくる。乾いた、溜息にも似た笑いが口から漏れ、それが余計に可笑しくてまた笑った。可笑しすぎて涙が出てきそうだ。 「……ん」 笑ったことで体が揺れたらしく、イギリスはもぞもぞと動いて顔を上げた。寝ぼけた目がフランスの方をぼんやりと見る。ぱちぱち。2、3度瞬きした。 「夢じゃ、無かったんだな」 フランスだよな、と確認するように顔を触ってきた。不意に目元を少々乱暴に擦られる。 おい、泣いてんなよ、とイギリスは言った。いくらまだ女のままだったからって。俺だって協力してやらないことも無いし。 緑色の双眸はあまりに心配気な色を映してフランスを見ていたから、否定するのもなんだと思い、ありがとう、と言って、自分でも一番だと思う笑顔を作る。 「別に、お前のために協力するんじゃなくて、外交とかに問題来たしたらいけないから協力するんだからな」 イギリスはさっと目を逸らして、やけに早口で言った。すこし顔が赤くて、それをフランスが指摘すると、うっせぇ、と小さく返される。 「それに、お前にどう接したらいいか俺が困るから、俺のためだ」 「え、簡単だろ。優しく接してよ」 「はぁ? 何言ってんだよ。何で俺がお前に優しく接しねぇといけねぇんだ」 「あー……愛があるから?」 「……お前、もう黙れ」 イギリスはふはぁ、と大げさに溜息を吐くと身を起こして、ベッドから降りた。さっさと昨日脱ぎ捨てた衣服を身に着けだす。一枚、また一枚と鎧を身につけるかの様に衣を重ね、すこし服は皺になっているが、見た目だけは英国紳士になっていった。あとは髪の寝癖をなんとかするだけだろう。その様を眺めていると、イギリスは振り返って、すぐに視線を他所へやってから、あっち向いてるからさっさとお前も服着ろ、と言った。 「あっち、て……今更だろ」 お前昨晩何して、今朝までどんな体勢で寝てたと思ってんの。 「うっせぇよ。あぁもう。だから早くお前に戻って欲しいんだ。……とりあえず、服着たらチェックアウトして俺ん家行くぞ。妖精なら何か知ってるかもしれない。お前が元に戻る方法」 妖精ね、とフランスが呟くと、文句あんのか一生お前そのままになんかも知れねぇんだぞ、と凄まれた。別に、と首を振る。 別にこのままでもいいかもしれない、と言ったなら、こいつはどうするのだろう、なんて。 |
俺だけを求めてくれるなら |