パチリと音がした瞬間、さっと手が伸びてきてまた同じ音がした。日本はにこにこと言った。

「王手」

イギリスは自陣にどんと居座っている金将の駒を何秒か恨みがましく見てから、ふはあ、と大きくため息をついた。

「詰んだな」
「詰みましたね」
「負けてばっかりだ」

日本はその金髪をくしゃくしゃとかき混ぜるイギリスを見ながら、小さく、危なかったと呟いた。今の盤の形は完全に日本の勝ちを示しているが、中盤かなり危ない状況があったのだ。もう少ししたら、もしかすると負けてしまうかもしれない。そう思って、日本は笑みを濃くした。目を上げたイギリスと目が合う。

「何で取った駒が使えるんだよ」

裏切りじゃないか、と言ってイギリスは駒を指でつつく。からりと音をたてて金将は転がって、何も書かれていない裏側を見せた。日本は何も言えなくて、笑っているだけしかできなかった。確かに私の歴史は裏切りの歴史だ。兄のところのは、取った駒を使うことはできなかったことを思い出す。

「慣れませんか」
「あぁ、いっつも手元の駒を忘れてしまう」

あなたの手の中にあるうちは、確実にあなたの駒ですよ、と思ったけど日本は言わなかった。もう一度大きく息を吐いてイギリスは駒を並べだす。

やりますか、と尋ねると、
負けてばかりではいられないからな、と彼はこっちを向いて笑った。
→また違う対局では