黒船屋の笠井月子さんに頂きました! 仏英なのですよ、仏英!(すごく幸せな気持ち) ありがとうございますv(もふもふ







Hedgehog・sweet

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はぁー。
無味乾燥。思い浮かんだ言葉をもう一度舌の上でころがす様に確かめる。まさにぴったりだ。
むみかんそう。
イギリスの態度は愛の国と称されるフランスには少々厳しいものがある。
例えば久しぶりに個人的な時間を許された、今の態度とか。妖精だの住民表登録済み幽霊だの世界最高峰の魔術だの、随分と浪漫に溢れたお国柄の癖に。

窓辺にだらしなく寄りかかりながら、フランスは心の中で文句を並べる。
その視線の先には、極真剣な表情で紙束と格闘しているイギリス。

それなのに、どうして時折、恋に対する姿勢が許し難いほどに無味乾燥になるのだろう。
張りつめた雰囲気ときっちりと着込まれた清潔感と責任感に溢れた隙のない衣服も。その鋭く的確な視線も。
直ぐに手が出る、その拳と同じ物とは思えないほど滑らかにペンを走らせ書類を繰る指先も。

眺めているだけでも、十分フランスの心を捕らえているのに。肝心のイギリスが、その存在を無視するように……いや、実際に無視をしている、どころか本気で忘れているのかもしれない。あり得そうで怖い。……こちらに視線の一つも分けてくれない。

それでも、大人しく、彼の注意がこちらに向くまで待っていた。
対立することも殴り合うことも銃を撃ち合うことも、それこそ愛憎劇の様に刃物を振り回し合う事だって日常茶飯事の恋人が、真剣に仕事をしている姿はお気に入りの一つだから。
自分の存在を忘れなければと、次回から注釈を付けようと決意して、フランスが窓辺から動き出しす。

「おーい、まさかとは思うけど、お兄さんのこと忘れてない?」
あくまでも軽いニュアンス。軽薄だと非難されることもあるが、それは相手にも自分にも心地よい猶予を与えるため。傷付かないように逃げ回っているだけだと非難されそうだが、目の前のイギリスこそがこの世で最も傷付きやすいと半ば本気で考えているフランスにしてみれば、必須事項以外の何物でもない。
口に出せば、本人から罵倒と皮肉で綺麗に否定されるのは目に見えているが。

そうして、煩いとか黙れとか何時も通りの罵倒が返ってくればひとまずそれで満足出来たのに。

かりかりと規則的に動くペンの音と繰られる紙が翻る音だけがその場を支配したりするから。
ちょっと、意地悪をしたくなった。だって、喧嘩にしたって、こんな無味乾燥なのは耐え難い。ロンドンは霧の都なんだし、コイツだってもっとウェットで良いと思う。自分を攻撃するときの、黒い方面とは別に。

デスクに片手を付いて覗き込む。
ここまでしても無反応だと泣けるものがある。
「……イギリス?」
「帰れ。」

はい?

「お前、それ恋人に言う台詞じゃねぇだろ」
ひくひくと頬が引きつってしまうのは仕方がないだろう。それでも軽薄な笑みを貼り付けてフランスが問えば、ぴたりとペンが止まり。

ぎろりと睨みあげられた。

「見て判らないのか?俺は可及的速やかに片づけなければならない仕事を抱えているんだが?」
「イヤ、今日はオフでしょうが。しかも来客中に目の前で仕事とかそれこそどうなの」
機密とか、情報漏洩とか。
真面目に緊急なのであれば、きちんと彼は告げるし、そんな事態ならばそもそも居座ったりしない。
覗き込めば、あっさりと処理していた書類の内容が目に入る。
……これは少し、怒ってもいいかなぁ。というか無味乾燥もここまで来るとふられたに等しい気が……

数時間、フランスを無視して彼が熱中していた書類は三ヶ月後の会議用の物だとか、明後日の英仏会談の資料だとかそんな物ばかりで。
「……これのどの辺りが可及的速やかに片づけなければならない仕事なのかな?」
うん?と笑みを深めて問えば屁理屈としか言いようがない返事が返ってきて。
「総ての仕事は可及的速やかに片づけられるべきだろう」
「明後日の会談に併せて、可及的速やかに準備を終えて訪ねた恋人を無視して?」
それが決定打だった。

容赦をする必要がないと確信したフランスは、この手間のかかる取扱要注意人物の本音をさらけ出すべく、遠慮を捨てた。5時間以上遠慮していたこと自体が、何というかご馳走様ですとコメントされそうではあるが。

機密やら仕事やらの書類を無防備に出しているのが悪いと結論付けて。
ばさっっ!

睨みあげていた瞳が驚愕に見開かれる。フランスがその長い腕で机上の書類を一掃したのだ。ペンやインク、機器類を器用に避けている辺りが彼らしい。
大量のきちんと分類されていた書類が中を舞って、ばさばさと床に落ちていく。
「……お、まえっなにしてんだよ!」
知るかが第一声であったが、それは笑顔で飲み込み、立ち上がって殴りかかってきた拳を掴む。
「お前こそ、何してるんだよ」
仕事だと懲りずに無味乾燥なことを言うから、手首をぎりりと掴み上げて胸ぐらを掴んで引き寄せた。

がんっとデスクに体を打ち付けてイギリスが呻く。
それに構わず、品の良いその机上に片足をのせて掴み上げたイギリスを上から見下ろす。
罵る言葉が出てくるより早く。覆い被さって唇を奪えば、不自然な態勢と状況を把握しきれない愛しい人は不意打ちの攻撃に息をあげ、たやすく進入を許す。
戦でもこうであれば大分楽が出来ただろうにと、どうしようもないことを考えて、無味乾燥が移ったかと、その思考を打ち消したところで。
「っぅふっ」
鼻に抜ける、甘いイギリスの声が漏れる。

思うさま口内を蹂躙することで、引きつけた体で、イギリスという存在を確かめる。震えた左手が無意識にだろうか?フランスのシャツの裾を掴んだから。

たまらなくなって、頭をかき抱き、更に深く貪るようにすれば、おずおずとイギリスが応える。ますます引きつけられた体は痛むだろうに。

一通りの激情をぶつけたところで、イギリスを解放すれば、濡れたのは唇だけでなくゆるゆると開かれた瞳もまた、濡れており、上気した肌と相まって何とも扇情的だ。

数分前までの無味乾燥が嘘のようでフランスは満足する。
解放すればずるりと椅子に深く腰掛け、それでも睨んでくるから、乗り上げたデスクから降り、ホールドアップ。
「なにを、かんがえてる」
優雅に礼をとってフランスが応える。
「久しぶりに逢った恋人に、どう接して良いか判らない最愛の人が素直になれるように」
同じく、久しぶりのキスを。

図星と苦手な恥ずかしい台詞にイギリスの頬が真っ赤に染まる。首筋まで赤いところを見ると、本当にそんな理由だったらしい。なんとなく、予想はしていたけれどと、溜息は隠して。
「だから、もうお兄さんと一緒に過ごしましょう?」

大分待たされたけど、お気に入りの姿は堪能できたし、何より。
「夜はまだ、これからだからな」
得意のウィンクで誘えば、案の定。
「こっっのっ!」
勢いよく立ち上がったイギリスがデスクを回り込んで、自分の目の前に。
どんっと拳を胸にたたき込んで、可愛らしくも憎たらしいお返事。
「ばかフランス!」
すかさずきゅっと捕らえて離さない。だって今日は大分待たされた。
「はいはい。因みにもうYesしか受け付けてませんからご注意下さいねー」
金色の髪にキスを落としながら宣言すれば、じたばたと腕の中で暴れる君。
盛大な文句はすべて笑い声とキスを誘う。

あぁ、ようやく愛を語るに相応しい空気ができた。
俺がお前を見て、お前が俺を見る事。

罵詈雑言と拳と武器が飛び交う、この愛憎劇において、たった一つ必要な事。

お互いの瞳にお互いが映る事。

……仏英! 仏英!(はぁはぁ)
月子さんの仏英ってかなりのレアだと思うのですが、私が頂いても良いのか、今更にぶるぶるしております。うへぇ。でも幸せ。
(確か私が何か絵を差し上げたお返しにこちらを頂いたのですが、もう、過去の私グッジョブ! でも差し上げた絵はもう精神衛生的に見てはならない物と化してますorz)

そしてキレる英も大好物なのですが、それ以上にキレる仏兄がほんっと大好きなので、月子さんわかってらっしゃる……!と思いました。大好きです。愛してます。
これからも素敵な独普も墺普も仏英も読ませてくださいねv 本当に、ありがとうございました!