雲の上はいつも晴れている。 |
「ん、イギリ」 ス、という音は発音されずに消えていった。絡んだ舌に感じるのはかすかな甘さ。さっきまで一緒に食べていたフランスのお土産のケーキだ。その時はテーブルを挟んで向こうにいたはずなのに、いつの間にかイギリスはフランスの膝の上に乗り上げて、首を抱いて、何度も何度も口付けてくる。フランスの方も別にそれに不満があるどころかすごく嬉しいので止めたりはしない。 めったにない状況に、晴れているからだろうか、と訪れたときの天候を思い出しつつ目を開くと、イギリスと目があった。イギリスはびっくりしたと言うように体を引いて、少しあがった息のまま、なんで目ぇ開くんだよばかぁ、と今更真っ赤な顔になって言った。 「ううん……今日のイギリスは積極的だな、て思って?」 「……嫌か?」 「嫌じゃないよ」 ちゅっと可愛らしい音を立てて真っ赤な頬にキスをすると、ますますイギリスは真っ赤になって、ふにゃふにゃもごもごと焦ったように口を動かして、そしてうつむいた。 ここで重要なのは、窓から覗くのは昼下がりの青空で、イギリスの後ろのテーブルの上にあるのはケーキが乗っていた皿と、ティーカップが二組だということだ。お酒とおつまみじゃない。酔いに任せての行動じゃないのだ。あのイギリスが。やはり、晴れているからかな、とうつむいた所為で差し出すようになったイギリスの後頭部を撫でた。幼い頃から肩肘を張ってきたように生きてきた子供はそれでも、いや、だからこそ疲れていたのだろう、ときたま無防備に寝むりにつき、その度にこんな風に髪を撫でてやったことを思い出した。さっきまで単に、得した、とくらいにしか思ってなかった心がじんわりと温かくなる。 「やばい俺、今幸せかも」 こぼすように呟くと、イギリスは、俺は、ととても小さな声で言った。 「俺は……俺は、幸せなんだ」 いつも。お前はそうじゃないかもしれないけど。 肩口に額を押し付けて、フランスの服をぎゅっと掴んだ様は縋っているようだ。 「そうじゃない?」 「……いつも、酷いこと言ってばかりだし、好きだなんて言えないから、お前は幸せじゃないだろう?」 悪いとは思ってるし、呆れられてることも知っているんだ、と言ってイギリスはいっそうフランスにしがみついた。捨てないで、置いてかないで、と全身で訴えている。そんな様子をフランスは愛おしく思って、イギリスを優しく抱きしめた。 「呆れてなんかいないし、お前とそうしている時でも俺はきっと幸せなんだ」 確かに喧嘩するよりも笑いあう方が幸せだろうけど、お前が傍にいるだけで俺も十分に幸せだから。 イギリスがいくら素直でない言動をしても、その本心を汲むくらいたやすいことだもの。 「だから、俺だっていつも幸せだ」 お前の気持ちはちゃんとわかってるよ。だからそんなに不安にならないで。 |
晴天頻度の不安と幸福 理由なんて他には無い。 幸福であるからこその不安なんだ。 |