「お前って、いつも笑ってるよな」

やけに楽しそうに鼻歌なんて歌いながら皿洗いをする背中に向かって、ロマーノは言った。スペインが湿っぽく泣いているのなんて見たことが無いかもしれない。

「え、何て?」

スペインは鼻歌をやめて振り返りながら、流してた水を止める。ごめん何て言うたか聞こえへんかった、もう一回言うて、と言った。そんなに小さな声で言って無かったのに、とロマーノは思ってスペインの顔を訝しげに見るが、嘘を吐いている様子は無い。にこにこと締まりのない顔でもう一度、なあ、と催促した。

「……お前はいつも笑ってる」
俺が、ずっと小さい頃からお前は、楽しくても笑って、困っていても笑ってる。

ロマーノがそう言うと、何やねんそれ、とスペインは笑った。

「あぁ、でもそうかもしれへんなぁ」
「かもしれない、じゃなくて、そうなんだ」
「まぁ……、ほら、泣いたり怒ったりすんのって、しんどいやん。せやったら笑ってる方が楽やし」
「楽ってどういうことだよ」
「笑ってたらそれで済む話もあるってことや」
「……なんだよ、それ」

俺といる時もそんな理由で笑ってるのか、と問おうとして、ロマーノは問えなかった。頷かれたらどうしたらいい? そんな恐いこと、聞ける訳無い。
だから、その、何を考えてるのかわからない瞳から逃げるように、ロマーノは目線を落とした。

「んー、あれや。オトナの事情ってやつやんなぁ」
「……わっからねぇ」
「ロマーノはわからんでええよ。むしろ、わからんといて」

悲しむような、懇願するような、慈しむような声に目線をあげると、スペインは笑っていた。それはどんな意味だ。お前は楽しくても、面白くても、困っていても、辛くても笑うからわからないんだ。

「ええんやで、わからんでも。笑ってなぁどうしようも無いことがあるなんて」
せやから、涙を流すことを忘れんといて。

ああ、寂しそうな笑みだ、とロマーノは思って、泣きたくなった。

お前は俺に泣けと言う
「いくらしんどくても強く吐きだす感情を、忘れんといて」