とっぷりと暮れてしまった窓の外に気づいて、時計を見るとすでに八時を回っていた。やってしまった、と手に持っていた資料を机に投げる。どったりと背もたれに体重を預けきった。

「どこの店も、閉まっちまったろうな……」

明後日までに何か、俺もあいつも納得できるような物を選ばないといけないのに。
その明後日に休みを取るために仕事を前倒しにした結果がコレだ。いや、まだ明日丸一日あるのだけれども。

ポケットから煙草の箱を探りだして、一本加える。次に取り出したオイルライターはフリントの擦れる音の後、勢い良く点火した。
そういえばこのオイルライターも、あいつからの物だった。確かこれは借りっぱなしがそのままだった、と思う。

「ライター、か」

煙草の煙を吐きながら呟いた。ライター、ね。まじまじと手に持ったライターを隈なく見た。
もとはあいつので、俺にやる気など無かっただろうから、これはあいつ趣味のだろう。それにしては装飾が少ないが、その、少しくすんだ金属が、なんとも言えぬ味を出しているとは思う。
もう自分自身、何十年と使っていて、これ自体を返す気は無いが、似たような物を探してみるか。

「……ああ、ダメだ」

たしか最近あいつは禁煙を始めたのだ。確か、前の会議の休憩時間にそんなことを聞いた気がする。そうなると、ライターをあげたところで意味が無いだろう。使わないものをあげてもしょうが無いのだ。

プレゼントの最低条件は、長い間使えて、しかもあいつが気に入る物。

「さて、どうすっかなぁ……」

煙を肺にいれて、吐き出す。あいつは禁煙すると言ってるが、自分はまだまだやめられそうにない。オイルライターを失くさないようにポケットの奥深くに突っ込んだ。

「……他の奴にはあいつ、何貰ってるんだろう」

参考にまでに、と頭は思ったのだが、心はどうしてかずっしりと重くなる。
俺は知らないが、誰かから貰ったものをあいつも愛用したりしているのだろうか。丁度、このオイルライターを俺が使うように。それらを使うとき、いつもその誰かを思い出しているのだろうか。

そう思うと、少しだけ、ほんの少しだけムカムカして、誤魔化すように煙草の煙を大きく吸い込んだ。

別に構わないじゃないか。他人がどうであろうと。俺は、俺が何かをあげたいからこうして考えているのであって、貰ってばっかじゃ悪いからと思って考えているのであって――俺ばかり日常であいつの影を見るのはずるいと思ったからであって、他人などは関係無いのだ。きっと。多分。だから、このムカムカは別の要因によるもの。

でも、他人のそうしたものがあいつの周りにあるのならば、それに埋没してしまわぬような物を贈りたい、とは思う。ならば条件に加えよう。

条件は、長い間使えて、しかもあいつが気に入り、かつ派手もしくは印象に残りやすい物。


あいつの誕生日は明後日だ。まだ明日一日ある。