いつの間にか日は暮れたのか、暗いなぁ、とアメリカは思った。灯りの点けていない部屋は夕日の沈んでしまった今、かなり暗い。左の向こうの方にある窓のもっと向こうに、小さな街頭の灯りが見えた。

今日はここでは珍しく、綺麗な夕日が見えたのに、きっとイギリスは気づいていないんだろうなぁ。

そう思いながら、アメリカのシャツの胸元をギュっと握って、しがみついている人物の背中を軽く、ぽんぽんと叩く。イギリスはもっと強くシャツを握っただけで、他に何の反応も示さなかった。ぽてん、と脇に手を落とした。
かれこれ数時間こうしている。綺麗だった夕日が沈みきってしまうほど、こうしている。

アメリカは座ってるソファ――数ヶ月前に無理やり持ち込んだもの――の背もたれに預けっぱなしだった背中を少しだけ起こして、座り直した。イギリスはずっとそのシャツを離さなかった。

いい加減めんどくさいなぁ、とは思ってるけど口には出さずに、そっとイギリスに腕を回す。ねぇ、と語りかけた。
ずっと数時間こうしているのに、二人は今日まともな会話をほとんどしてない。

「どうしたんだい」

イギリスは頭をアメリカの胸に押し付けたまま首を振った。
アメリカは回した腕に少しだけ力をいれた。

「イギリス?」

答えてくれないなら放して、と促すと、イギリスはまたさっきと同じように首を振った。いやいや、と小さい子のわがままみたいでもある。
ひゅぅと細く息を吐く音が聞こえ、それよりも小さく擦れた声がする。

「ここに、いろ」

声の割りには語調は強くて、本当のわがままだった、と思った。

「何で」
「おまえがいると、泣けないから、泣かなくて、すむから」

何だい、それ。強がってるつもり? そもそも、

「……もう、泣いてるじゃないか」
「うるさい」
だまれ。

可愛くない言葉を吐きながら、もぞもぞとイギリスは動いて、また安定したとこを見つけた。ぎゅっと掴んだシャツは放さない。
何に泣いてるかはわからないけども、とりあえずアメリカを必要としてるらしい。
そんなイギリスに、アメリカは、たまには甘えられるのもいいかな、なんて思って、小さく笑いながら一層強く抱きしめる。好きなだけ泣きなよ、と少し気分がいいままそのつむじにキスをした。

何で泣いてるかなんて、きっと関係ないし、それほど興味なんて無いんだ。今は、腕の中の人だけでいい。

「泣いてねぇよ」

イギリスは擦れた声で小さく言った。

真っ暗な部屋の中、互いの存在だけがはっきりとしていた。
泣いてるのを隠す誰かも、
知りたいくせに自分を騙す誰かも、

強がりエゴイスト