『ねぇ、笑って。そうそう。可愛い。すごく可愛い』

「よう、カナダ。最近どうだ?」 

声をかけられて振り向こうとしたら、後ろから髪に手をいれられてわしゃわしゃっとかき混ぜられた。

「うわぁっ」

驚いて声を出すと、くすくす笑い声と煙草の匂い。フランスさんだ。そう認識して、大きな手だなぁ、なんて思う。大きさとしてはあまり変わらないことは確かなんだけど、身長もいつの間にかわずかに越してしまったのも確かなんだけど、大きな手だなぁ、て思う。

アメリカは嫌がるけど、俺はこうされるのが嫌いじゃない。

「……別にそんなに変わったことはないです」

そう答えると、フランスさんは、そっか、平和だね。いいじゃん、と言った。手を髪から抜いて、今度はさりげなく綺麗に撫で付けてくれる。今日なんか寝癖のままだったから、今の方が朝よりもちゃんとしてるに違いない。
なんとか収まったのか、それとも諦めたのかフランスさんは手をとめて今度は俺の肩に腕を置いて、耳元に顔を寄せる。

「なぁ、今晩飲みに行こうぜ」

内緒話するみたいに、小さな声。

「え、いいですよ」

なんで内緒話なんですか、と同じく小声で問う。

「だって皆いるし」

アメリカ来たら煩いし、イギリス来たらウザいし。ね、一緒に行こう。内緒で。
そう冗談めかして言って、フランスさんは楽しげにもう一度、くすくすと笑った。


初めて名前を呼びながら頭を撫でてくれたのはフランスさんだったりする。
今でも誰かと違うことなく俺の名を呼んでくれるのはフランスさんだけだったりする。

それを言うと、当たり前だろ、と笑われた。コトン、とグラスを置く音がする。

「お兄さんがお前を誰かと間違う訳ない」
「……」

内心わかってる。たとえば髪型を変えて、そう、そっくりに。アメリカとそっくりにしてしまったら? それでも?
でも言えやしない。気の弱さから断定を覆すことのできないということもあるが、それ以上に、それなら無理だ、と言われるのが怖い。

何て言葉を返せばいいのかわからなくて、ずっと黙っていると、フランスさんはグラスを取って一口。

「……イギリスはアメリカのことで頭がいっぱいだからしょうがないし、他の奴は他人のことなんてそうそう良く見てないんだからこれもしかたが無いけど、俺がお前を間違うのはしょうがなくないから、絶対間違わない」

安心しな、と言って、グラスを持ってないほうの手でまた俺の髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。

「本当?」
「本当だから」
安心して。笑って。幸せそうに微笑んで。

昔もこんなこと言われたなぁ、と思い出すと、自然に笑ってたのかフランスさんはふわりと微笑んだ。髪を撫でてくれる手がすごく優しかった。

「カナダにはお兄さんがいるからね?」

『泣かないで。笑って。俺の可愛いカナダ。ねぇ。幸せでいて』