冷えた指は硬くって、動かし辛くなっている。思う通りに動かないわけじゃないけど、どこか体から、いや精神から離れてしまったような自分の所有物でない感覚がする。手を擦りあわせて温めてみたが、いくらの効果もなかった。たださほど冷えてはいなかった手の甲に指が絡んで自分でその冷たさに驚いた。
きっと指だけで生死を判断したなら死んでいると思われてしまうだろう。
そんなことを思って、ひとりで笑う。口元にやった手が冷たかった。

独りの手

「うわぁ」
隣でイタリア君が驚いたような声を出した。どうしましたか、と訊く。ドイツさんは今席を立っていて、イタリア君と二人で長椅子に並んで座っていた。
「手、すごく冷たいね」
言われて、あぁと納得する。もともとスキンシップの激しい彼だから近くに寄ってきたときに手が触れたのだ。
あっためなきゃ駄目だよー、と彼は言って両手で手を包んでくれた。あったかい。
「ありがとうございます」
そう微笑んで言うと、彼はにっこりと笑ってえへへーと言った。まだ手をあっためてくれている。
「イタリア君の手は、温かいですね」
「ドイツの方があったかいよ」
そういえば兄達も温かかったことを思い出して、大陸の方々はそうなのかもしれない、とちらりと思った。
「俺が、どうしたんだ」
ドイツさんが部屋の中に入ってきながら言った。イタリア君の声はよく通るからうっすらと聞こえていたのだろう。
「手がね、温かいって話」
日本の手、すごく冷たいんだよ。
イタリア君が言うと、そうか、と呟きながら近づいてきた。差し出された手に自らの手を載せる。彼らと一緒にいるにつれ、触れ合うことにも慣れてきた。
「……そうでもないが」
「さっきまでずっと、イタリア君に温めて頂きましたから」
言ったらイタリア君は緩んだままの顔でよかったね、と言った。あなたのおかげですよ、と返す。
「茶を淹れてこよう」
ドイツさんも少し緩んだ顔で出ていく。
「俺もいくー」
バタバタと音をたてて出ていった。
微笑んだまま見送って、自らの手に目を落とす。
さぁっと少しずつ指先から熱が抜けていく感覚にぎゅうと手を握りあわせた。温かみを逃がさぬように。


海をめぐらせた島ではひとりで、冷えた手は冷えたまま。
随分冷えているだろう窓に触れても、何も感じなかった。
そろそろと線を引いた。向こう側の景色ははっきりと透けた。ごしごしと手のひらで擦る。
窓の向こうで細い月がひとり、冷たいように光っていた。
大陸から切り離された島ではひとり、たまにどうしようもなく寂しい。
温かみを覚えた手はなおさら。

独りの手の、なんと冷たいことだろう。