フランスの、家だった。

イギリスの家ではない。フランスの家だ。別段不思議なことではない。
確かに、フランスがイギリスのところに行くよりイギリスがフランスのところへ行くことは少ないが、無いわけではない。いや、わりとしょっちゅうとも言えるかもしれない。
そしていつもの様に飲んでいた。もう太陽はとうに沈みきって、きっと日本あたりの真上だろうから紅茶にケーキでは無い。グラスに注がれたワインと、食べやすい大きさに切られたチーズがフランス好みのテーブルの上にある。
珍しくイギリスの酔い方も悪くなかったからフランスも安心して酔えた。
ワインもチーズも美味いし、まぁいい夜だと言ってもいいだろう。ふわふわとした頭で、表情でフランスはそう思った。

「今日はー、きげん、いいんだね」
「んぁ、そーかー?」
同じ様な表情で隣のイギリスが返した。同じ、一つのソファに座っている。二人とも斜めに腰掛けてお互いの方を向いていた。
「何かあった?」
「ん、特になーにも」
そっか、と言って笑うと、あっちも笑った。うん、いい夜だ。イギリスの笑い方も柔らかいし。
テーブルに置かれたイギリスのグラスが空だったから、注いでやる。音を立てて赤い、透明な液体が入っている。

きれいだなぁ、なんて思ってたら、ありがとう、と聞こえた。
いえいえ、と答えた。

ついでに自分のにも継ぎ足して、ボトルをテーブルに置く。三つの器で赤い液体がゆらゆらとわずかに揺れた。
その揺れが収まったころ、

ぼすん

肩に、イギリスがもたれかかってきた。二人で同じソファに座っている。
その重さがちょっと心地よくて、でも髪がちょっとくすぐったい。

小さく笑って聞いた。
「眠たいの」
イギリスが肩にもたれかかってきたまま首を振る。
近すぎて顔を見ることは適わないけど、多分さっきと変わらない顔をしてるんだろう。ふわふわとした顔をしてるんだろう。
じゃぁ、と続けようとすると、イギリスは体を離す。重みと温かさが離れていったようで肩が少し寂しい。

「キスしたい」

言うと同時に、彼は熱をもった唇を押し付けてきた。頭がふわふわして、くらくらした。