鳥になろうか、風になろうか。

イギリスは自宅の郵便受けの中に待ちに待っていたものを見つけて、微かに、だが確かに微笑んだ。差出人の性格を表したような均等で丁寧で小ぶりな文字が並ぶ。
その場で封を切ればほのかに何か香った気がして、思わず手紙に鼻を近づけた。

これという香りは、ない。

「何やってんだ、俺」
手紙を胸の辺りまで落として呟いて、自分に苦笑いする。
家の中へ入って、リビングのソファへ座った。

封筒の中からゆっくり出した便箋は封筒と揃いのもので、アイヴォリーの和紙にところどころローズピンクが薄くぼかされてあった。開く指がどうしてか恐る恐るという風になる。一、二、三……四枚に渡る手紙。

約一ヶ月半かけて海の向こうのそのまた向こうから届いた、手紙。

一瞬の瞬きのうちにに彼の物静かに微笑む姿を思い出してから文字に眼を走らせる。
『親愛なるイギリスさんへ』
丁寧に書かれた文字よりも、あの声でそう呼ばれたらどれだけ幸せだろうか。
今度はゆっくりと眼を閉じてちゃんと思い浮かべて、今傍に居ないことに余計切なくなった。

「……会いたい」
言葉は勝手に唇から漏れた。

「いらねえ奴らはいるのに、なんで」

傍にいて欲しい人はいないのだろう、とは口には出さなかった。
だけれども思っただけで顔が火照る。ああ、もう、ユーラシア大陸なんて消えてしまえばいい。ヨーロッパなんか太平洋のど真ん中にでも移ってしまえ。馬鹿でかいロシアも中国も目障りだ。
全くの八つ当たりだということはわかるけど、思わずにはいられない。

「会いたい」

今度は意識して言った。言えば言うほど気持ちは膨らんでいく。
でも言わなかったら言わなかったで心が破裂してしまいそうな気がした。

そしたら君に今すぐでも会いに行くというのに。