なにしにきた、て。
「お前に会いにきた」
「帰れ」

見るなり、どころか見てさえも無いのに言いやがった。もったいないな、俺の笑顔。
ケーキ持ってきたんだけど、と言ったらいつもはぶつぶつ言いながらも結局は紅茶を淹れてくれる筈なのに、今日はいらねぇから帰れ、と言われた。せっかく作ってきたのに。
書類をめくる手は忙しなくて、本気で忙しそうだ。あれ、でも。

「それ、まだ期間あるだろ」

今彼の手にあるものは、うちも関係しているからわかる。

「うっせぇ。早めに終わらすんだよ」
ってか、帰れよ。何座ってんだ、ばかっ、と続けて言われた。

自分でも無意識のうちに座っていたらしい。いつもの位置の、座りなれた、椅子。何回座ったかなんて知れない。同じく、何回イギリスのもとを訪れたかなんて。どうして訪れるか、なんて。

認めてしまった方が負けのゲーム。今のとこ俺の個人プレイ。どうやってお前を引きずり込もうか。

「昼、食べた?」
「そんなの食ってる暇ぁねえよ」
「お前んとこの場合食わねぇ方がマシだもんな」
「んぁ? どういう意味だ」

挑発してみても、視線は書類、意識は書類。
頭のほんの端っこから出されている返答に、同じようなこと前も話したんだなぁ、あれ、いつも? と思う。

「なぁ、何をそんなに急いでんの」
「明日日本が来んだよ、それまでに終わらせんだ」

遠い遠い東洋の、彼の友人を頭に浮かべた。多分俺は今、ああ、ってわかったように返事をしている。

認めてしまった方が負けのゲーム。二人はどうなんだろう? もう既に二人とも認めてしまってるのか。

「せっかく出来た、ともだち、だもんね?」

強調して言う。彼はやっと顔を上げて、こっちを睨んだ。

「ああ、そうだよ! とにかく俺ぁ終わらせなきゃいけねぇんだ! わかったんなら」
「帰らねえよ、ばぁか」

認めてしまった方が負けのゲーム。それ以前にこのゲームは負けているの? 誰に。彼の『ともだち』に?
いやいやそんな筈はない。そんなことがあっていい筈がない。

「昼飯、作ってやる」

そうやって、最初来た時の笑顔で笑って、いらねぇ、という声を無視して、座り慣れた椅子から立ちながら。
お前の好きなカレーを作ってやろうと思った。
恋をしました。
ああ、認めてしまった方が負けなのに。